不眠を起こす病気

ホルモン補充療法(HRT)と漢方療法。更年期障害の2つの治療法とは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

更年期障害で使われる薬

前回の記事icon-external-link では、更年期障害の病院での検査法や自分でできるチェック法についてご紹介してきました。

内診や血液検査などの検査を行い、更年期障害であると診断された場合、その後医師の指導のもと治療が実際に行われていくこととなります。

現在、更年期障害の治療として主に行われているのはホルモン剤を利用したホルモン補充療法(HRT)漢方療法の2つです。

今回は、この更年期障害の2つの治療法についてご紹介していきます。







1.ホルモン補充療法(HRT)

①ホルモン補充療法(HRT)とは

更年期障害の症状の多くは、卵巣の機能低下によって女性ホルモンであるエストロゲンが急激に減少したことによって引き起こされます。

ホルモン補充療法とは、この症状の原因であるエストロゲンを薬によって補い、ホルモンの急激な変化に体がついていけるようにする治療法です。

その症状改善の有効性は高く、更年期障害の治療の第一選択として検討されます。

薬は、主に錠剤タイプの飲み薬と下腹部に貼り付ける貼り薬の2種類が多く使われています。

※以下ではホルモン補充療法をHRTと略します。

②効果とメリット

icon-check-circle様々な症状を改善

病気の治療法には、あらわれる症状を和らげる対症療法と症状が起こるそもそもの原因を解消する原因療法があります。

HRTは更年期障害の原因であるエストロゲン不足を解消する原因療法であるため、症状改善に著しい効果があります。

症状の範囲も不眠、頻尿、肩こり、記憶力低下、冷え、肩こりなど更年期症状の殆どに効果があり、特に多くの更年期障害患者を悩ませるのぼせ、ほてり、多汗といったホットフラッシュの改善に大きな効果があります。

総合医療メディア、QLifeが行った調査icon-external-link によると、HRT治療を経験した女性の約7割が症状改善効果がみられたと回答しています。

HRTを始めて症状は改善したか

HRTで改善した症状

※更年期障害におけるホルモン補充療法(HRT)に関する実態調査結果報告書[株式会社QLife]より引用(上図は筆者が編集)
※クリックすると拡大できるようになります。

また、改善効果が早いのも特徴で、早い人で1~2週間、遅くても3週間ほどで効果があらわれてきます。

icon-check-circle精神的症状の改善効果も

上で挙げた2つ目のグラフでもわかる通り、HRTはホットフラッシュや頭痛など身体的な症状だけでなく、イライラや憂うつ、不眠など精神的な症状の改善効果もあります。

これまで悩んできた身体的症状が軽減されたこととともに、エストロゲンには気分を明るくしたり和やかにする作用があり、更年期障害特有の気分の落ち込みやイライラ等の心の症状を解消する効果も期待できます。

icon-check-circleアンチエイジング効果

更年期を迎える女性の肌は、肌自体の老化とともにエストロゲンが減少することにより皮膚のコラーゲンや水分が減少し、肌のしみや乾燥が目立ってきてしまいます。

しかし、HRTはこのエストロゲンを補充する治療法なので、コラーゲンが増えたり水分量を維持することができるようになり、アンチエイジング効果も期待できます。

また、皮膚のかゆみや皮膚の上をアリが這っているような感覚といった皮膚に関する症状の改善にもつながります。

icon-check-circle骨量減少の歯止め

更年期障害の検査の記事でも述べましたが、更年期以降の女性の骨量は急激に減少し始め、65歳以上になると約半数の人が骨粗鬆症にかかっているとも言われています

この骨量減少もエストロゲンの分泌量が低下したことが原因ですので、これを補充することにより骨量の減少を食い止め、骨粗鬆症やそれによる骨折を予防することができます。

icon-check-circle動脈硬化の予防

動脈硬化とは、全身に血液を送り込む動脈が老化や病気によって硬くなったりもろくなったりする状態のことを指しますが、この動脈硬化があると心筋梗塞脳梗塞の発症率が高まる危険な症状です。

女性ホルモンであるエストロゲンには本来悪玉コレステロールを減少させる一方で、善玉コレステロールを増加させる働きがあり動脈硬化を防ぐ効果があります。

そのためエストロゲンが減少する更年期では動脈硬化が起こる可能性が高まるのですが、HRTはこのエストロゲンを補う治療法のため動脈硬化を予防する効果も期待できます。

※ただ、エストロゲンには血液を固まりやすくする働きもあるので、既に動脈硬化がある人には逆に心臓病や脳の血管障害の危険性が高まるという報告もあります。

③副作用とデメリット

このように更年期障害の症状改善だけでなく様々な効果のあるHRTですが、それに伴う副作用などのデメリットも見過ごすことはできません。

icon-check-circle5年以上使用すると乳がんの危険性が高まる

HRTの副作用で最も注意しなければならないのが『がん』のリスクです。特に注意しなければならないのが乳がんです。

補充するエストロゲンが乳腺組織の増殖を活発にするため、乳がんの発症の可能性を高めてしまうのではないかといわれています。

実際にアメリカで行われた調査では、5年以上HRT治療を続けた人とHRTを受けていない人の乳がん発症率を比べたところ、HRTを受けた人の方が1.26倍高かったという報告がされています。(※1)

ただ、注意したいのがこの調査対象者に肥満者や喫煙者が多かったことや年齢が高かったこと、そして、日本人よりアメリカ人の方が乳がんの発症率が高いことなどを考慮すると、この結果からHRT=乳がんのリスクが高まると断定することはできません。

日本更年期医学会の見解でも、この調査結果をそのまま日本人女性にあてはめることについては疑問があるとしています。(※2)

しかし、反対に影響がないと断言することもできないためHRTを行う場合には乳がんのリスクは考慮しなければなりません。

ただ、この調査でもHRTを続けた期間が5年未満であるならば発症率に差があらわれないこともわかっています。

実際のHRTの治療期間について、上で紹介したQLifeが行った調査によると、HRTを行った人の8割以上が5年以内に治療を終えているので基本的には問題ないと考えられます。

HRTの治療期間

※更年期障害におけるホルモン補充療法(HRT)に関する実態調査結果報告書[株式会社QLife]より引用し筆者が編集
※クリックすると拡大できるようになります。

また、HRTを行う場合、治療前だけでなく治療中も定期的に検診を行わなければならないので、仮に乳がんなどの異常が発生しても早期に発見し、治療を始めることもできます。

※1 ホルモン補充療法ガイドライン 2012 年度版(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会)
※2 更年期障害の最新治療 監修 村崎芙蓉子

icon-check-circle子宮体がんのリスクは?

そもそも女性ホルモンには更年期障害に影響を与えるエストロゲンだけでなくプロゲステロンというホルモンもあります。

HRTが行われ始めた当初は、原因であるエストロゲンだけを補充する方法で治療をしていましたが、この方法の場合、5年以上投与を続けると子宮体がんの発症率が5~8倍高くなることがわかっています。

しかし、以後研究が進み、エストロゲンだけでなくプロゲステロンも同時に投与すると、このリスクはなくなり、逆に発症率は下がるということがわかっています。

現在行われているHRTでは基本的にはこのエストロゲンとプロゲステロンを同時に服用することになります。

ですので、子宮体がんの発症に関してはHRTを行ったからといって危険性が高まるということはありません。

※これはあくまで子宮体がんでない人の発症率であり、既に子宮体がんを患っている人に投与するとがん細胞が増殖する危険性があるため、HRTを行うことはできません。

icon-check-circleその他の病気にリスク

HRTはがんのほかにも、脳卒中静脈血栓塞栓症高血圧などのリスクが高まることが指摘されています。

これらは、エストロゲンの血中濃度が高まると、血液を固める物質や血圧を上げる物質がつくられるのを助けてしまったり、コレステロールの代謝に影響を及ぼすためと考えられています。

また、女性ホルモンの影響を受ける子宮筋腫や子宮内膜症、乳腺症などもエストロゲンを投与することによって病気が進行したり、再発する可能性を高めてしまう可能性があります。

ただ、再発したとしてもエストロゲンの投与を中止すれば症状は改善するといわれています。

icon-check-circle不正出血・乳房痛・片頭痛が起こることも

HRTを行うと、閉経後であっても高い確率で月経のような出血を起こすようになります。

ただ、その量は日を追うごとに少なくなり、1~3年ほどでなくなるといわれています。

また、HRTを行った人の約5%に乳房の痛みや張りの症状があらわれたり、ほかにも片頭痛むくみ吐き気などの不快症状があらわれることもありますが、これらの症状は多くの場合、薬の種類や量を調節することで消えていきます。

しかし、これらの症状を理由としてHRTを中断してしまう人がいることも事実です。

④気になる費用は?

ホルモン剤というと普通の薬とは違い、値段が高くついてしまうそうなイメージがありますが、更年期障害の治療として行われるHRTであれば保険が適用されるので、1か月に1000~2000円くらいの自己負担で済みます。(※)

※初回であれば、別途検査料等がかかります。
※出典 更年期の不安を解消 日経ヘルス編

2.漢方療法

漢方薬

HRTとともに更年期障害の治療の柱となるのが漢方薬を使った漢方療法です。

①漢方療法とは

HRTのようにエストロゲンの減少という更年期障害の原因に対してこれを補充するという直接症状の原因となる部分に働きかけていくのが私たちがよく触れる西洋医学ですが、これに対して、女性ホルモンの減少は更年期の女性の自然の変化として認め、身体全体の状態を整えて自己治癒力を高めていくことで症状を緩和させていくのが漢方療法です。

漢方療法はこのように身体全体の調子を良くしていこうとする治療法であることや漢方として使われる生薬は自然界にある植物や鉱物を複合的に配合していることから、たとえ一剤でも複数の症状に効果があります。

また、患者の状態や体質に合わせて治療を行うのも特徴の一つであり、独特の診断法に基づくその人の『』を見極め個別に漢方が処方されます。

この証を判断する際には、顔の表情や精神状態、皮膚、体型などをみる望診、体臭や声をみる聞診切診と呼ばれる触診や問診などを医師が行い総合的に判断されます。

また、身体の状態は一定ではなく変化するものなので、それに伴い証も変わってきます。

そのため、その時々の証に合わせた処方をするので、処方される漢方が変わることもよくあります。

②漢方療法のメリット・デメリット

漢方は、身体の自己治癒力を高めていく治療法のためHRTのように即効性があるわけではなく、早くても服用から2~3週間はかかるといわれています。

しかし、日々服用を続けることによりじわじわと効果があらわれ、その持続期間が長いのが特徴です。

また、漢方では身体を身体全体を動かすエネルギーである『』、血液やその流れをあらわす『』、唾液や尿、汗などの血液以外の体液をあらわす『』の3つの要素で構成されていて、これらのバランスが崩れると身体に不調があらわれると考えています。

漢方三大要素

自律神経と関係が深い『』が乱れればイライラや落ち込み、疲労感が、『』が乱れれば不眠や動悸、肩こりが、そして『』が乱れればむくみやめまいがといった具合に不調があらわれてきます。

漢方は、のぼせやほてりといったホットフラッシュに関してはHRTに劣るものの、これら三大要素に関する症状には大いに効果があります。

特に漢方は、めまい頭痛といった身体症状、イライラ憂うつといった精神症状にも強いといわれています。

さらに、漢方にはHRTと違い副作用がほぼなく、HRTを行えない人でも漢方ならば問題ありません。

そのため、HRTと漢方療法を併用して行うことができ、短期的な症状はHRTで改善し、その後は漢方で症状を緩和させていくといった治療法をとることもできます。

③更年期障害の治療で使用される漢方

先ほど述べたように基本的にはその人の証によって処方される漢方は異なってきますが、女性三大漢方と呼ばれる『当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)』、『加味逍遙散(かみしょうようさん)』、『桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)』で更年期障害の症状の殆どをカバーできるといわれています。

これらを合わせ更年期障害の治療で使われる代表的な漢方を挙げると以下のようになります。

  • 当帰芍薬散
    冷え症、貧血、めまい、むくみ、耳鳴り、頭痛、肩こり、動悸など
  • 加味逍遙散
    イライラ、のぼせ、不眠、肩こり、疲れやすさ、頭痛など
  • 桂枝茯苓丸
    肩こり、頭痛、瘀血など
  • 温清飲(うんせいいん)
    のぼせ、ほてりなど
  • 五積散(ごしゃくさん)
    冷え、頭痛、腰痛、関節痛など
  • 温経湯(うんけいとう)
    ほてり、不眠、冷え、頭痛、瘀血など
  • 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
    不眠、神経の疲れなど

④気になる費用は?

更年期障害の治療として病院で処方される漢方薬には保険が適用されるものもあるので、その場合は1か月2000円程度の自己負担となり、市販薬や漢方専門薬局で購入する場合は1か月6000~15000円程度といわれています。(※)

なお、③でご紹介した漢方はすべて保険が適用されます。

※出典 更年期の不安を解消 日経ヘルス編

これまで述べてきたHRTと漢方療法のメリット・デメリットをまとめると以下のようになります。

漢方とHRT

これらの漢方療法やHRTのほかにも、不安感や憂うつ、イライラ、不眠など精神症状が強い場合には、抗不安薬や抗うつ薬などの向精神薬を使った薬物治療カウンセリングが行われることもあります。

まとめ:治療法は自分で選択する

以上、ホルモン補充療法と漢方療法を中心とした更年期障害の治療法についてご紹介してきました。

これまで述べてきたように、ホルモン補充療法にも漢方療法にもそれぞれにメリット・デメリットがあり、一概にどちらの治療法がよいと断定することはできませんし、治療を行う方の状態によっても適切な治療法は変わってきます。

もちろん医師がその人に合った治療法を提案してくれますが、治療法を最終的に決めるのは患者さん自身です。そのためには、治療についての知識を持つことはとても大切になります。

自分の体や心の状態、そして、症状との向き合い方を考え、自分に合った治療法を選ぶよう心がけましょう。

次回の記事では、これらの治療法以外に自分でできる対策についてご紹介していきます。

更年期障害の症状を緩和する自分でできる4つの対策

生理不順や動悸など、女性を悩ます更年期障害の15の症状
更年期障害の病院での5つの検査と自分でできるチェック法

 

参考:
・最新版 更年期障害 これで安心 辛い症状と不安を解消! 監修 堀口雅子
・更年期障害の最新治療 監修 村崎芙蓉子
・更年期の不安を解消! 日経ヘルス編
産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2014
ホルモン補充療法ガイドライン 2012年度版
更年期障害(漢方のツムラ)
おくすり110番
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*